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山の日レポート

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通信員レポート

立山信仰の世界へようこそ!【連載8】全国に広まる立山信仰

2026.03.25

全国山の日協議会

 みなさん、こんにちは。富山県[立山博物館]館長の高野です。
 前回は、江戸時代に立山信仰の拠点集落であった、芦峅寺と岩峅寺を紹介しました。今回は、両集落の衆徒(しゅと=僧侶)によって立山信仰がどのように全国に広まっていったのかを見ていきましょう。

立山曼荼羅大仙坊A本(芦峅寺大仙坊蔵)

(1)芦峅寺衆徒による勧進布教活動

 芦峅寺33宿坊の衆徒は、全国各地に檀那場(だんなば・立山信仰の信者がある程度集中して存在する得意先)を形成していました。毎年、秋から春にかけての農閑期に江戸、大坂、尾張国(愛知県)、信濃国(長野県)などにある檀那場へおもむき、布教活動を行いました。
 檀那場では、庄屋宅や寺院に人びとを集め、「立山曼荼羅」という掛軸式の絵画をかけ、立山信仰を布教しました。大きなポイントは「絵解き」という手法です。「立山曼荼羅」の画面を見せながら、巧みな話術で、ときには身ぶり手ぶりも交えて、布教したのです。
 絵解きは、立山開山縁起から始まり、男性に対しては立山禅定登拝、女性に対しては布橋灌頂会という法会への参加などをすすめました。そのおり、自分の宿坊へ宿泊するよう勧誘し、立山の道案内や便宜をはかることを約束したのです。
 そして護符(ごふ=お守り札)や霊薬、死者に着せる経帷子(きょうかたびら=お経を刷り込んだ白い衣)、血盆経(けちぼんきょう)なども販売しました。販売品の代金は、初穂料として1年送り、つまり翌年に訪れた際に徴収しました。1年間のご利益に対して代金を払うというシステムだったのです。
こうした宗教的な活動を「廻檀配札活動」(かいだんはいさつかつどう)と呼びます。檀那場の情報や販売実績などを記した「檀那帳」とよばれる帳面が残っており、当時の具体的な活動の様子をうかがうことができます。

檀那場の様子(ジオラマ展示)

立山の護符「立山之宝」と版木(富山県[立山博物館]蔵、版木は国指定重要有形民俗文化財)

立山の護符「火の用心」と版木(富山県[立山博物館]蔵、版木は国指定重要有形民俗文化財)

 

善道坊檀那帳(部分、富山県[立山博物館]蔵)

(2)岩峅寺衆徒による勧進布教活動

 他方で、岩峅寺24宿坊の衆徒は、加賀藩領である加賀・能登(石川県)・越中(富山県)の地域を中心に布教活動を行いました。
 岩峅寺一山は、加賀藩から立山山中の維持管理を任されていました。そのため立山山中の諸末社や室堂の修理、あるいは禅定登拝道の草刈りなど、山中整備のための費用を集める必要がありました。そこで藩の許可をえて、一定の期間、本尊や寺宝を披露する「出開帳」(でかいちょう)を加賀・能登・越中の寺院を巡回しながら行いました。
 岩峅寺衆徒の「出開帳」で披露されたのは、立山の阿弥陀如来像です。本尊である阿弥陀如来のお像には、左胸のところに小さな穴が空いています。これは、立山開山者の佐伯有頼(あるいは有若)が熊の左胸に矢をはなち、その熊は阿弥陀如来であった、という縁起にちなみます。これを「矢疵阿弥陀如来」(やきずのあみだにょらい)を呼んでいます。「出開帳」では、立山曼荼羅も披露されたと伝わり、男性へ立山禅定登拝を呼びかけ、自分の宿坊に泊まるよう勧めました。

矢疵阿弥陀如来立像(富山県[立山博物館]蔵)

(3)立山に寄せられたこころ

 江戸時代、立山信仰は一般庶民に広まりました。石仏や石灯籠、経典や仏像などの什物(じゅうもつ=寺院で使われる仏具や生活用具)が寄進されています。
 また、加賀藩前田家は、堂舎の修復費用を負担し、税金を免除するなど、立山信仰をあつく信仰しました。岩峅寺では藩主や家臣との親密な交わりがみられ、芦峅寺も藩主から立山権現祭の神輿を寄進されています。さらに、江戸幕府の老中をはじめ、江戸城大奥や大名屋敷に住む身分の高い女性たちも健康と往生、家の安泰を願って立山の神仏に心を寄せています。

 このように、江戸時代、芦峅寺と岩峅寺の衆徒は、全国のあらゆる階層の人びとに「立山信仰」を広めたのです。このことが今日の霊峰・立山の名声を高めることにつながったと言えるでしょう。

立山芦峅寺に伝わる加賀前田家寄進の神輿(雄山神社中宮祈願殿蔵)

 次回は、現在も芦峅寺の女性の信仰を集めている、山の神「オンバサマ」(うば尊)について見ていきましょう。引き続き、連載にお付き合いいただければ幸いです。

◎立山博物館展示館には、立山マンダラの図像を自由に拡大できる「デジタル立山曼荼羅」があり、来館者に好評です。山岳集古未来館には、加賀藩前田家の寄進と伝わる大きな神輿が展示されており、立山に寄せられた「こころ」の一端を感じることができます。立山に来られた際には、ぜひ博物館にお立ち寄りいただければ幸いです。

常設展示「デジタル立山曼荼羅」

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