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山の日レポート

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通信員レポート

立山信仰の世界へようこそ!【連載6】立山の帝釈天と閻魔王

2026.01.25

全国山の日協議会

 みなさん、こんにちは。富山県[立山博物館]館長の高野です。

 前回は、立山の地獄谷が仏教で説かれる地獄の実在する場所として人びとの信仰を集めたという話をしました。そのなかで地獄におちた女性が、法華経の滅罪供養(めつざいくよう)を受けて「忉利天」(とうりてん)に転生した、という平安時代の仏教説話を紹介しました。今回は、まず忉利天上に住む帝釈天(たいしゃくてん)と立山との関係を、続いて立山の閻魔信仰について紹介します。

(1)帝釈天の住む山

 平安時代の『今昔物語集』巻14には「その所に大なる峰あり。帝釈の嶽(たけ)と名づけたり。それ天帝釈、冥官の集会したもうて、衆生の善悪の業を勘へ定むる所なりといへり」とあります。
 立山には地獄とともに「帝釈の嶽」という大きな山があるというのです。この「帝釈の嶽」は、帝釈天の住む山という意味であると考えてよいでしょう。
 そして帝釈天と冥官(死後の世界にいる役人)が集まって、私たちの善と悪の行いを観察し(地獄におとすかどうか)審判を下している、というのです。
 帝釈天とは、古代インドの武神インドラに由来する、仏教を守護する天部のほとけです。なかでも右手に筆をもち、左手に紙(巻子)をもつ帝釈天は、衆生の善悪の行いを観察し、衆生を地獄行きか、忉利天行きか、死後どちらに赴かせるかを審判する役割があったとされています。かの閻魔王と同じく、「地獄の裁判官」だったのです。
 なお、江戸時代の百科事典である『和漢三才図会』や立山曼荼羅では、立山三山の一つである別山の別名を「帝釈岳」としています。江戸時代の別山には帝釈天がまつられていました。そして別山山頂付近にある池を「硯ヶ池(すずりがいけ)」と呼んでいます。帝釈天がこの池の水を使って筆で紙に文字を書いていると信じられていたのです。

銅造帝釈天立像(国指定重要文化財、鎌倉時代、富山県[立山博物館]蔵)

別山南峰山頂付近にある硯ヶ池

(2)銅造帝釈天立像の文字からわかること

 立山博物館では「銅造帝釈天立像」(国指定重要文化財)という銅像を所蔵・展示しています。平成3年(1991年)には、海を越えて大英博物館の「鎌倉彫刻展」で展示されており、日本を代表する鎌倉時代の像です。大きな特徴は、胸から脚、台座に「立山禅頂」「寛喜二年」「頼禅」などと銘文があることです。「禅頂」とは山頂のことで、おそらく別山の山頂を指していると思われます。「寛喜二年」とは、西暦1230年であり、「頼禅」とは僧侶の名で、この人物がこの像を山頂に奉納したことがわかります。
 奉納の目的は、銘文によれば、六道に迷う衆生を救うために「如法経」(=法華経)を1日1部ずつ、6日間毎日書写し、それを像のなかに納めた後、供養をしたとしています。じつはこの像の体内は空洞になっていて、法華経を納める容器を兼ねています。
 鎌倉時代、立山の別山では如法経修行(法華経を書写・奉納し、苦しい修行をする)がなされ、そのことで滅罪が果たされると信じられていたようです。そして、その審判を帝釈天にゆだねていたのです。

銅造帝釈天立像の銘文

別山(標高2,880m)

(3)立山の閻魔王

 鎌倉時代の立山では、帝釈天が地獄の裁判官の役割を果たしていたことを確認しました。ところが、鎌倉時代後期になると、閻魔王がその役割を担うようになったようです。
 立山芦峅寺には、閻魔堂(昭和3年再建)があり、鎌倉時代後期作とみられる木造閻魔王坐像が鎮座しています。像高は160cm以上あり、比較的大型です。鎌倉時代には、浄土教が広まるなかで、芦峅寺において閻魔王、泰山王、五道転輪王、司命と司録の「閻魔五尊形式」(えんまごそんけいしき)でまつられた可能性が高いと考えられています。ちなみに芦峅寺の閻魔堂の名がはじめて文献にあらわれるのは、文正元年(1466年)武将・神保氏の寄進状においてです。
 また、かつては地獄谷にも閻魔堂があり、江戸時代のいくつかの立山曼荼羅や山絵図にも描かれています。金属製の閻魔王像がまつられていたと伝承されていますが、建物は現存していません。 
 このように、地獄の山・立山には「地獄の裁判官」がおり、はじめは帝釈天から始まり、やがて強烈な容姿と個性をもつ閻魔王が登場し、主流となったようです。

木造閻魔王坐像(富山県指定有形民俗文化財、鎌倉時代、芦峅寺閻魔堂蔵)

芦峅寺閻魔堂

 次回は、江戸時代に立山信仰の拠点であった、芦峅寺集落と岩峅寺集落についてご紹介します。引き続き、連載にお付き合いいただければ幸いです。

◎立山の帝釈天については、特別企画展の展示解説図録『立山と帝釈天』、立山の閻魔王については「立山×地獄展」がオススメです。
購入方法については、立山博物館(076-481-1216)までお問い合わせください。

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