アンバサダー
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2024年山の日アンバサダーメッセージ
2024.12.23
1年はあっという間に過ぎていきますね。目の前の目標をひとつひとつ乗り越えていくだけで精一杯な日常の中で、このように1年を振り返る機会をいただいたことに感謝します。
2024年の目標は、エベレストに予報を発表しつつ登頂することと、「気象遭難ゼロ」へ向けて新たな一歩を踏み出すことでした。前者は、山の日アンバサダーで国際山岳ガイドの近藤謙司氏が率いるアドベンチャーガイズ隊に参加させていただき、“予報&クライム”に成功することができました。
こちらの詳細は下記ページで書かせていただきましたので、興味のある方は是非、ご一読ください。
気象遭難ゼロへの挑戦は、私が山岳気象予報士として、前職で仕事を始めた2008年からおこなっているものです。当時はツアー登山やガイド登山、中高年登山グループによる気象遭難が相次いでおり、先輩や友人の山岳ガイドや登山ガイドからも「最近の天気は難しい。何とかできないか。」と相談を受けていました。そこで、前職でツアー登山をおこなっている会社と契約し、気象リスクについて具体的なアドバイスを行なう仕事を始め、また、ガイドさん向けには「山の天気予報」という全国の主要な山の天気予報をメールで配信するサービスを開始しました(その後、webページでの配信を開始し、一般登山者向けのサイトに生まれ変わり、リニューアルを重ねて現在に至る)。そこで意識したのは、具体的な気象リスクをお伝えし、登山者にとってリスクが高い気象状況のときに「大荒れ情報」というアラートを発表することです。その結果、ツアー登山やガイド登山における気象遭難は激減しました。
その一方で、組織に属さずに個人で登る登山者の遭難は増加しています。最近の遭難やヒヤリハット事例を見ていると、天気予報や登山指数などの気象情報を利用することが遭難を減らすことには繋がっていない実情が分かってきました。前日に大雪が降り、雪崩が起きたばかりの斜面に登山者が列になって登っている姿を見たり、積雪期の登山で明らかに装備不足の登山者を見かけることが増えてきています。無雪期においても、山小屋の従業員に「天気が崩れるので無理をしないように。このルートはやめたほうが良い。」などと忠告を受けても予定通りのルートを辿ってしまい、低体温症に陥って亡くなってしまうケースが散見されます。そこで、今年は私が代表を務めるヤマテンで新たな取り組みを始めました。
どうしてこのような行動を取ってしまうのかを考えたときに、原因のひとつがリスクを想像できないことだと思いました。例えば、猛吹雪の中では目の前にいる人ですら見えず、雪の上の足跡(トレース)はあっという間に消えてしまうことや、スマホが低温下でバッテリー切れを起こしてしまうこと、手袋を外して操作すると凍傷のリスクが高まること、先行者のトレースは安全だという錯覚や、自分が歩いているときには雪崩が起こらないという思い込み、雪崩の後に雪がすぐ固まってスコップを持っていないと掘り出すのが困難になること、増水した沢を無理に渡ろうとしたときにどのような力がかかるのか、川底の石が滑りやすいこと、風速毎秒20メートルを超える風雨の中、行動したときに体にどのような反応が現れるのか、暴風の中、テントを張ることの困難さやポールなどが折れるリスクについて等々。こうしたリスクを想像できなければ、いくら天気予報を使っても怖さが分からないので、予定通りに登山を続けようという行動につながります。
そこで、私が所属するヤマテンでは「気象遭難を起こさないための安全登山ノート」(以下、安全登山ノート)を作成しました。そこでは、「知る」「備える」「行動する」という3つのステップを踏むことが安全登山に必要であることを書いてあります。まずは登山をおこなうとき、どのようなリスクがあるのかを「知る」ことが重要であること。そして、自分の登山ルートでどのような気象リスクがあるかを天気図、地図やガイドブック、他の登山者の記録等から想定し、想定されるリスクから身を守るために引き返すべきポイントを設定し、「備える」という作業をおこない、登山中には、ステップ3の「行動する」を適切におこなうこと。具体的には、観天望気から天候変化の兆候をいち早く確認して避難行動へつなげることや、引き返しポイントでの進退の判断、アクシデントが起きたときに適切な処置をおこなうことなどです。これらのことを実践しなければ、天気予報を利用しても遭難を防ぐことはできません。安全登山ノートは長野県や富山県など山岳遭難が多い県や山小屋などで活用していただいております。また、下記ヤマテンチャンネルで利用方法についての動画配信をおこなっていますので、是非参考にしてください。
次に、数年前に作成した空見リスクマネジメントマップ(以下、「空見マップ」)の利用方法について動画配信を開始しました。
ガイドブックなどでは、梯子や鎖場があるなど登山ルートの危険個所や標高差、所要時間などについては詳しく書かれていますが、気象のリスクがどこで高まるのかや、天候が悪化してきたときに、引き返すのか先に進むのかをどこで判断すべきなのか、空を観察するのに適した場所などは書かれていません。そこで、ヤマテンでは登山者が一目でわかるように、イラストで危険個所や判断ポイントを示した「空見マップ」を作成しました。
現在は、これから雪山を始めようと思っている方、あるいは雪山に登っているけれど、山岳会や山岳部などで雪山の心構えや雪山に入るトレーニングを受けていない方向けに「リスクを学んで雪山を始めよう!」という動画を前述の「空見マップ」動画と隔週で配信中です。
今後も、遭難を起こさないための知識、「山の天気予報」の利用方法などの動画を公開していきます。皆様の遭難防止にお役立ていただければ幸いです。
それでは皆様、良いお年をお迎えください。
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