閉じる

ホーム

  •   
  •   

閉じる

山の日コラム

山の日コラム

事務局コラム

沖縄県の魅力 その2 〜全国大会開催に寄せて〜 今井通子

2023.06.22

全国山の日協議会

1)沖縄の森林セラピー基地

沖縄県には、独特な生態系がおりなす豊かな自然を維持する691島もの島々での自然散策、河川・海洋アクティビティ、そして独自の食文化があるので、国内外の人々を問わず、何度訪れても新しい体験が出来、知的好奇心も満たされます。又、亜熱帯気候である事や独特な生態系等は、研究者にとっても魅力的な県として認識されています。

寝転がり見上げる梢

このような他に類を見ない独自性を持つ沖縄県は、一方で他の都道府県と足並みを揃える事にも長けた県です。
そのひとつが『森林セラピー基地・ロード』設置の素早さでした。

フジバカマの花に吸蜜しに来たアサギマダラ蝶

2)森林セラピーの歴史

ここで、まず森林セラピーの歴史を御紹介します。が…写真は沖縄の森林セラピーコースで見られた生物もあしらいましたので、目の保養をしながらお読みいただければと思います。
1982年当時林野庁長官だった秋山智英氏が、日光浴や海水浴に擬えて“森林浴”なる新語を提唱し、その翌年から林野庁を中心に、森林環境が持つヒトの健康維持・増進機能等の調査・研究が始まりました。
1900年代にはヒトが都市部に居る時より、良く整備された森林内に居る時の方がストレスホルモンが減少するということを、宮崎良文(現在、千葉大学環境健康フィールド科学センター 特任研究員)が世界で初めて発見し、国際的に注目されました。
2004年には宮崎先生の提案で、森林セラピーと言う言葉が誕生し、その後商標登録もされました。
森林セラピー®とは、「経験的に認識されて来た森林浴による心身への癒し効果等を、科学的に解明して、心と身体の健康づくりプログラムなどに積極的に活用していこうとするもの」です。
この年の3月、産学官の連携による森林医学に関する調査、研究、広報活動の実施と、森林セラピーの実践にかかる諸条件(森林セラピーメニュー等)の検討・整備を目的として森林セラピー研究会(以下、研究会と略す)が発足しました。
研究会の最初の事業は、代表幹事だった当時大阪大学大学院医学系研究科教授 森本兼曩先生を中心に行われた世界中の森林・自然の持つ健康への影響・効果に関する論文収集等でした。森本先生はこれらを元に“森林医学”なる言葉を造語し、2006年5月30日宮崎先生らと共に森林医学に関する内容を編集し、『森林医学』を朝倉書店から出版しています。一方2004から2007年の間には、「森林系環境要素が人の生理的効果に及ぼす影響の解明」が農林水産省の先端技術を活用した農林水産研究高度化事業に組み込まれ、この研究資金を使用し、諸大学をはじめ興味を持った研究者らが数々の調査研究を行いました。これにより、森林環境がもたらす心理的効果のみならず、生理的効果についても、客観的、科学的解明が本格的に進みました。例えばこの研究資金を使い、都市部に居る時より、良く整備された森林内に居る時の方が、自然免疫の一つ、NK細胞(ナチュラルキラーセル)が活発に働き、抗癌蛋白質により癌発症を防ぐ効果がある事を突き止め、さらにNK活性は森林に居る時は、1日目で上がり、2日目でさらに上昇し、都市部に戻っても1か月後までは森林内に行く前の数値より高値を示す事を発表した李卿先生(現日本医科大学 リハビリテーション科教授)の論文は世界的に広がり、日本の森林医学が国際的に評価されるきっかけとなりました。
当時としては前例のない程の短期間でこれらの調査・研究が進んだため、約2年3か月後の2009年3月10日には『森林医学Ⅱ 環境と人間の健康科学』が出版されました。

研究会は普及活動にも余念がなく、一般公開シンポジウムや講習研究会の開催、企業による「森林セラピー」関連商品の開発・認定等に加え、森林セラピーに適した森林地域を、森林セラピー基地・ロード(以下 基地・ロードと略す)として認定するため、良く整備された森林と安全性の高い歩道を設置した、主に地方自治体に対し、森林内の気温や香物質の濃度及び被験者による生理心理学的実験を行うと共に、周辺地域の認知度や温泉、宿泊等も含めた実地調査その他を行った上で、基準に達している場所を2006年から基地・ロードとして認定しはじめました。
しかし、これらの事業はおりからの臣から民への流れの中で、民営化される事となり、研究会は2008年3月に解散し、その業務は、急遽立ち上げたNPO法人森林セラピーソサエティに移行し、研究会で幹事をしていた民間人である私が理事長を引き受けることになってしまいました。

マメ科のつる植物イルカンダの花

3)NPO法人森林セラピーソサエティのアクション

当時最も差し迫った仕事としては、すでに基地・ロードの認定のための要件を全て終了し、認定、審査を待つばかりの基地・ロード候補地が13箇所あった事です。これらの認定作業の中で、私はすでに前年度までの2年間で認定された基地・ロードの一覧に目を通し、基地・ロードが北海道から沖縄までに分布している事に気付きました。そこで私は2008年までに認定した基地・ロードの広報が、多くの人々にとっての健康維持・増進に結びつくと考え、JTBパブリッシングの大人の遠足BOOKに既存の基地35か所の解説と刊尾に宮崎、李両先生の生理学的効果の解説を入れたガイドブックを発行してもらいました。

以上長々と森林セラピーの歴史を綴りましたが、それは人々がストレスフルな生活を強いられている現代社会の中で、森林の持つ人への癒し効果を活かそうとした官民を問わずの人々が0からの研究で生理学的に解明し、森林浴、森林セラピー、森林医学と新語に次ぐ新語を作りながら真摯に科学的に向き合ったチャレンジ精神が花開き今や国際的に日本の森林浴(Shinrin-yoku)は国際用語ともなっている40年間の道筋を皆様に知っていただきたかったことと、実は沖縄県は2007年すなわち基地・ロードの認定が始まって2年目には基地・ロードに認定されていたという事で、伝統的な独自性で楽しめる沖縄ですが、日本の持つ美しい自然を活かす試みであり、しかも人々の健康に関係する大切な事へはいち早く協調する沖縄のチャレンジ精神も気づいてほしかったからです。
基地・ロードは今では64箇所、47中32の都道府県にまで広がっていますので、沖縄県は全国レベルの中でももう老舗中の老舗です。しかもその位置が今回の山の日全国大会地の一つである国頭村にあるのです。私は、理事長になる以前から森林セラピー基地・ロードへは仲間と一緒に観光客として行っていましたし、理事長時代もそして現在も同じスタンスで出かけています。

参考資料:
「森林セラピーⓇ研究会の歩み」「森林医学」「森林医学Ⅱ」「森林セラピーガイドブック」等

国頭村のコースについては次回に譲ります。

コース(亜熱帯のジャングル)を行く

RELATED

関連記事など