山の日レポート
通信員レポート
みちのく高山植物誌(3)ハクサンイチゲはタクサン・・・。
2023.06.01
みちのくの山野草探訪者「モウズイカ」さんからのレポート第3回です。
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私が思い浮かべるのは「ハクサンイチゲ」です。この花は大きな群生(お花畑)を作ることが多く、
また登山シーズンの初期に見る花なので、インパクトが強いのかもしれません。
詳しい特徴は他の成書にお任せします。
日本各地に近縁種や変種があり、東北地方以北にはエゾノハクサンイチゲ、
四国の高山にはシコクイチゲが分布するようです。
となると、本頁で取り上げるハクサンイチゲは厳密にはエゾノハクサンイチゲかもしれませんが、
東北では誰も「エゾノ・・・」とは呼ばないので、
ここでは従来からの呼び名、ハクサンイチゲで通します。
「イチゲ」は茎の先に一個の花が咲くという意味で、同じイチリンソウ属(Anemone)のイチリンソウやキクザキイチゲなどを指します。
ところが、次の写真をよくご覧下さい。
この花は茎の先に短い柄を持った花がたくさん(2~5個、あるいはそれ以上)付いています。
少なくとも一個の花(=イチゲ)ではないし、群生していっぱい有るので、
私はこの花をふざけて「タクサンイチゲ」と呼んでいます。
この花、中部山岳ではごくありふれた高山植物ですが、東北ではどうでしょう。
勝手に東北地方での分布マップを作成してみました。
この花、東北地方では生育する山は割と限られています。
日本海側では鳥海山、月山から朝日・飯豊連峰までありますが、
奥羽山系は羽後朝日岳、焼石岳、不忘山(蔵王連峰の南端)の三箇所だけと少ないです。
太平洋側では高山植物の宝庫、早池峰山にもありません。
次のハクサンイチゲは奥羽山系、焼石岳のものです。
焼石岳のハクサンイチゲは鳥海山のように単独ではなく、
ユキワリコザクラ(ピンク)やミヤマキンバイ(黄)、ミヤマシオガマ(マゼンタ)などと混生し、
素晴らしいお花畑を形成します。
個人的には、東北で最も美しいお花畑ではないかと思っています。
このお花畑は六月下旬になると、一旦、店じまいしますが、真夏になるとまた復活します。
真夏に咲く花の種類はガラリと変わりますが、ハクサンイチゲだけはまた咲き出します。
周りで一緒に咲く花はハクサンシャジンやハクサンフウロ、ウスユキソウ、トウゲブキなどです。
こんな花風景は他の山では見たことがありません。
紅葉時期に訪ねると、数は少なくなりますが、ハクサンイチゲはまだ咲き残っています。
これは三度咲きと言うのでしょうか。
鳥海山や月山、焼石岳に登ると、花が一輪だけのハクサンイチゲをときどき見かけます。
手持ちの古い図鑑、原色新日本高山植物図鑑(Ⅱ)(清水建美・著、保育社・発行)によると、
エゾノハクサンイチゲの中で、全体が小さく、花が単生するものは、
イチリンハクサンイチゲ(チョウカイイチゲ)と呼ぶとの記載がありました。
「イチゲ=一輪花」なのに更に「イチリン」と念押ししているのにはつい笑ってしまいました。
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