山の日レポート
通信員レポート
時の流れと出会いがつなぐ唐松岳
2022.02.17
宮城県仙台市在住の福井美津江さんからご投稿いただきましたので、ご紹介します。
はじめての唐松岳は、震災のあった2011年に山と溪谷社さんと「日本山岳遺産基金」さんの、被災親子を応援する企画にご招待をいただき宮城県から訪れました。小学生低学年でも歩ける無理のないスケジュールは贅沢にも2泊3日。山歩きを始めたばかりで唐松岳を知らずにいましたが、北アルプスという憧れの場所にいるだけで満足でした。
山小屋での食事や宿泊、参加者さんとの交流、娘と共に楽しめました。震災後およそ半年たっておりましたが、まだまだ不安が続いていたので、非日常的な山旅のおかげで久しぶりに気持ちが震災から離れ、震災前のなんでもない(不安のない)時間を過ごすことができました。その後の私の山人生を変えてくれた出会いもありました。ただ、ひとつだけ残念なのは3日間全て雨やガスで、せっかくの絶景を目にすることができなかったことです。その後、唐松岳や八方尾根からの景色が気になりつつ、いつか訪れる機会に恵まれるだろうと漠然と思っていました。
最近ご縁のあった人が11年前の私のブログをご覧になっていて、見られなかった絶景を見に行こうと唐松岳山行を計画してくれたのです。休日と厳冬期の好天はなかなか重なりませんから、ギリギリまで予報をみて決行することにしました。
到着した八方尾根スキー場は曇り。ゴンドラとリフトを凍えながら乗り継いで八方池山荘へ。すると、上は雲海で夕日が東の山々を染め、もうそれだけで十分なほどでした。山荘はテーブルやイスが新しくなった他、佇まいは以前と同じ。当時小学2年生だった娘はもう高校3年生です。山荘ではしゃいでいた様子を思い出します。翌日の計画を確認し、早めに就寝。
夜中に目覚めて窓を開けると、そこには月明かりに照らされた真っ白な白馬岳と輝く星空。もう寝ている場合ではありません。天候が午後から崩れる心配もあったため元々早かった予定をさらに早めて出発することに。月と雪のおかげで周りの山々がよく見えます。なんて素晴らしい景色なのでしょう。唐松岳頂上山荘の上の稜線で朝陽を迎え360度の大展望を目で辿りました。遠くに切絵のように浮かぶ富士山のシルエット。迫る五竜岳、立山、名前だけは知っている有名な山々が目の前にあります。そして、いよいよ唐松岳山頂へ。
当時ガスの中、山頂へ向かう決断をし、フォローしてくださったスタッフのみなさん、ありがとうございます。山は11年前から何も変わらずそこにあり、訪れてみればまるで昨日のことのように感じるけれど、私の11年はあっという間だったのか。剱岳を背景に白く色あせた山頂標識を眺めながら、変わっていくこと変わらないこと、人との出会いを想う唐松岳でした。
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