山の日レポート
通信員レポート
数十年ぶりの尾瀬再訪―東北の最高峰、燧ケ岳へ
2021.11.05
宮城県仙台市在住 福井美津江さんから投稿いただきましたので、紹介します。
数十年前の話になります。
就職してすぐ、高校山岳部の友人から誘われ尾瀬に行きました。車の免許はありましたが長距離の運転は慣れていなかったので、移動は公共交通機関を利用しました。記録によると東北本線や会津鉄道などを乗り継ぎ、乗り合わせの待ち時間も含め、仙台から御池まで一晩がかりでした。そこまでして訪れた尾瀬ですが、燧ヶ岳に登らず湿原歩きだけだったのは体力、技術ともに自信がなかったのでしょう。当時の写真を見返すと、ニッカズボンに大きいザックを背負って格好だけはいっぱしの登山者なのが微笑ましいです。
その後しばらく山から離れましたが、現在は週に1度のペースで山歩きをしています。
先日、燧ケ岳に行こうと声をかけられたとき、まだ未踏であることに気が付きました。尾瀬は当時の印象から、はるか遠い幻の場所のような感じがして、なんとなく候補から外していたようです。
紅葉が終わらぬうちに、あちらこちらの山で初冠雪が見られ、燧ケ岳山行も雪の心構えを持って出かけることとなりました。数十年前は一晩かけてたどり着いた御池まで、車では数時間ほど。尾瀬が現実の世界となりました。
登りはじめると、柔らかな雪に覆われた森に朝の斜光が差し込み、キラキラ輝いています。太陽とともに気温が上がれば薄い雪や霧氷はとけてしまうので、貴重な光景です。そのうちに木々が低くなり傾斜がゆるくなると、目の前に真っ白な湿原が現れました。まるで一帯にココナッツパウダーをまぶしたようです。何度も写真を撮りたくなり、なかなか進みません。山頂から下ってきた人から富士山が見えたと聞き、天候が変わる前にと歩き出しました。双耳峰のひとつ爼嵓登頂とともに目に入ったのは富士山でした。
思っていたよりもハッキリしていて、美しい三角形なのですぐにわかりました。もうひとつの柴安嵓からは尾瀬ヶ原を見渡すことが出来ました。以前訪れた際に宿泊した小屋や歩いたであろう道筋を目で辿ることができました。将来山に夢中となった自分が燧ケ岳を登りに再訪するとは、当時の自分に言っても信じられないでしょう。
下山はナデッ窪を沼尻平へ。もう雪はとけてありません。湿原に赤く紅葉した羊草が浮いていました。ゆっくりお茶したあとは大江湿原を通り、沼山峠からバスで御池へ戻りました。夏の緑の湿原や水芭蕉のイメージが浮かぶ尾瀬ですが、初冬の素晴らしい日に訪れることができました。
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