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山の日レポート

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通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載45】これでいいのか登山道

2026.07.15

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

 連載45回目は、鹿島賢史さんによる、「利用集中が生む登山道荒廃」の3回目となります。福島県の安達太良山の事例をレポートいただいていますが、自然環境の中にありながら、多くの人の手によって維持されている登山道の整備の担い手と、その変化の過程についての考察です。
 また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。

利用集中が生む登山道荒廃(その3 登山道は誰が支えるのか)

 鹿島 賢史 (筑波大学大学院 山岳科学学位プログラム)


 これまで見てきたように、登山道は自然環境の中にありながら、多くの人の手によって維持されています。今回は、安達太良山における整備の担い手と、その変化の過程について考察します。

生業とともに維持されていた山の道

 現在の安達太良山では、「登山道」は主に登山者のための空間として認識されています。しかし、もともと山の道は観光やレジャーのためだけに存在していたわけではありません。例えば、西側斜面、現在の沼尻登山口周辺から山頂方向へ進む一帯では、かつて硫黄鉱山の開発が行われていました。山道は、鉱山資材の運搬や作業者の往来のために利用されていたと考えられ、現在登山道として利用されているルートの一部も、こうした鉱山利用と関係する道を基盤としていた可能性があります。また、東側の山麓地域では炭焼きや林業も行われていました。山中で生産された木炭は、現在の二本松市周辺でも販売されていたとされ、山と地域の暮らしは密接に結びついていました。炭焼きや薪炭材の搬出のため、人々は継続的に山へ入り、道を利用していました。
 こうした時代の山道は、現在のように「登山道整備」という形で独立して管理されていたわけではなく、人々が山を利用する営みの中で結果的に維持されていた側面が強かったと言えるでしょう。道を歩き、人が定期的に出入りし、必要に応じて補修することが、生活や生業の延長として自然に行われていたのです。

奥岳登山口周辺に今もなお残存する炭窯跡(岳温泉観光協会HPより写真抜粋)

生業の衰退と山岳会による維持管理

 しかし、鉱山の閉山や炭焼き・林業の衰退によって、山に継続的に関わる地域住民は減少していきました。それに伴い、従来のように地域の生業と一体化した形で山道を維持する仕組みは徐々に失われていきます。
 現在の登山道は、かつての生活道や作業道を基盤としている部分も少なくありません。しかし、その利用目的は大きく変化し、生活や労働の場から、観光・レクリエーションの場へと性格を変えてきました。こうした変化は、単に利用者層が変わったというだけではなく、「誰が山を管理するのか」という構造そのものを変化させたと言えるでしょう。
 生業と結びついた維持管理が難しくなる中で、登山道整備は地元山岳会や有志による活動へと委ねられていきます。これは安達太良山に限らず、全国の多くの山岳地域で散見される傾向であり、長年にわたって登山道はこうした主体によって支えられてきました。山岳会の会員や地域住民による草刈り、簡易補修、巡視活動などは、多くの場合、無償またはそれに近い形で行われています。こうした活動によって、日本各地の登山道は維持されてきたと言っても過言ではありません。一方で、この構造はボランティア的な性格が強く、担い手の高齢化や人手不足、資金不足といった問題を抱えています。
 つまり、かつて生業の中で自然に維持されていた山道は、現在では「善意」によって支えられる存在へと変化してきたのです。しかし、登山利用が拡大し、整備の専門性や継続性がより求められるようになる中で、こうした体制だけでは対応が難しくなりつつあります。

登山アプリYAMAP参画のプロジェクト

多主体協働へと移行する登山道整備

 近年、こうした状況に変化が見られます。行政に加え、民間企業や外部団体が登山道整備へ参画する事例が増えてきています。安達太良山でも、企業による支援や協働の取り組みが見られ、多様な主体が関わる体制へと移行しつつあります。

アウトドアブランド ファイントラック参画のイベント(ファイントラックHPより抜粋)

 例えば、登山アプリ運営企業やアウトドア関連企業などが、整備活動への協力や資金提供を行うケースも見られます。これまで地域内部に偏りがちだった登山道管理に、外部主体が関与し始めている点は大きな変化と言えるでしょう。
 企業の参画は、従来の整備体制にいくつかの重要な変化をもたらしています。まず、資金面において行政への依存度が相対的に低下し、新たな財源の確保につながる可能性があります。また、人材の面でも、企業などを通じて新たな担い手が加わることになります。
 これまでの登山道整備は、行政予算と地域の無償労働に支えられる構図が強く、その偏りが課題となっていました。企業の関与は、この構図を相対化し、より多元的な支え方へと移行する契機となり得ます。
 一方で、主体が多様化することで、調整や意思決定の複雑化といった新たな課題も生じます。整備方針の共有や役割分担、責任の所在など、複数主体が関わるからこそ必要となる調整もあります。それでもなお、従来の枠組みだけでは対応しきれなかった課題に対する新たな方向性として、この動きは注目に値するでしょう。

環境省主催のイベントでは一般参加者も広く募集された(環境省裏磐梯自然保護官事務所HPより引用)

これからの登山道整備

 これから重要になるのは、各地でどのような主体が、どのような関係性のもとで整備を行っているのかを整理し、事例として蓄積していくことではないでしょうか。安達太良山で見られたように、登山道整備の形は地域によって異なり、唯一の正解があるわけではありません。行政が中心となる地域もあれば、山小屋や山岳会、地域住民の活動が大きな役割を担っている地域、また企業や外部団体が積極的に関与している地域もあります。だからこそ、それぞれの地域で行われている取り組みを共有し、比較しながら考えていくことに意味があるように思います。
 また、近年は登山者の増加や利用形態の変化によって、登山道に求められる管理のあり方も変わりつつあります。一方で、地域側では担い手の高齢化や人手不足が進んでおり、従来と同じ形で維持管理を続けることが難しくなっている山も少なくありません。こうした状況の中で、多様な主体がどのように関わり合いながら山を支えていくのかは、今後ますます重要な課題になっていくでしょう。
 登山道整備は単に道を直す作業ではなく、山をどのように利用し、誰がその環境を支えていくのかという問題とも関わっています。安達太良山の事例もまた、そうしたこれからの登山道整備のあり方を考える一つの材料になるのではないでしょうか。

整備オフシーズンの冬にも安達太良山には素晴らしい景色が広がります

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