山の日レポート
通信員レポート
みちのく高山植物誌(1)コマクサ
2023.05.01
秋田市在住で「みちのくの山野草の探訪者」ことモウズイカさんからの高山植物の紹介です。
前回「スプリング・エフェメラルの花筵(むしろ):3部作」を投稿していただいています。
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東北地方の山はけっして高くないが、何故か高山植物には恵まれている。
まずは『コマクサ』
ウィキペディアによれば、
「コマクサは、美しい花と、常に砂礫が動き、他の植物が生育できないような厳しい環境に生育することから『高山植物の女王』と呼ばれている。」
との書き出し。
私も同感だ。
コマクサの女王としての称号は荒涼とした生育地環境と対になっているものだと思う。
その分布域は千島列島・樺太・カムチャッカ半島などの東北アジアと日本の北海道から中部地方。
東北地方では岩手山、秋田駒ヶ岳、蔵王連峰の三ヶ所(尾瀬の燧岳も入れると四ヶ所)とのこと。
今回、東北のニヶ所の山で生育する様を紹介する。
まずは秋田県の秋田駒ヶ岳。
この山ではコマクサは、山頂ではなく、南側稜線上の大焼砂などで多く見られる。
この地の標高は1400~1500m。猛烈な風に晒されるため、
雪が吹き飛ばされてしまい、冬場でも下界から黒く見えるほどだ。
まことに過酷な環境と予想されるが、
近づいてみると、そこは黒っぽい火山礫に広く覆われている。
ぱっと見には何も生えていないようだが、薄青ピンクの点々はこれ全てコマクサなのだ。
植物保護のため、この群生地に立ち入ることは出来ない。
しかし何箇所か、登山道から間近にコマクサの姿を見ることが出来る。
とても楚々とした姿だが、それは地上部だけの話。
地下部は凄い。根っこの長さはなんと100 cmにも達するそうだ。
それを知っていたら安易に生育地に踏み込むなんて出来ない。
少なくとも1m以上は離れて見るべきだ。
岩手山では、コマクサは山頂付近にもあるが、北側の焼走りルート途中の群生が凄い。
その地の標高は1250mから1300mくらいだろうか。
こんな低い場所なのに登山道のずっと上も下も斜面はコマクサばかりだった。
秋田駒ヶ岳大焼砂よりも群生の規模はこちらの方が遥かに大きかった。
ひとつひとつの株もでかく、花数も多かった。それを登山道から間近に眺められる点も凄い。
登山道はザクザクの火山砂礫なのでとても歩きにくいが、
日本一立派なコマクサを見られるのだから文句は言うまい。
このような登山道が数百メートル続く。
正式名称ではないが、仮に「コマクサロード」としておく。
なおこの群生地は、以前に較べるとミネヤナギなどの低木が増えて来たそうだ。
すると土壌が安定するのか、他の草花も続々と侵入してくる。
やがてこの場所はスッポリと他の植物に覆われ、コマクサは消えるかもしれない。
しかし・・・
岩手山が噴火し、新たな噴出物に覆われた荒地が広がると、
いつのまにかコマクサがまた生えだし、新たな遷移が始まる。
コマクサは遷移の先頭に立つ植物だ。
こういう植物のことを先駆植生(パイオニア)と呼ぶと以前習った。
女王様の本当の姿は荒地の魔女、いや勇猛果敢なる切り込み隊長だったのだ。
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