工藤夕貴
YoukiKudoh

女優

  essay  

東京都出身。 1983年に芸能界入りし、今井正監督の遺作となった『戦争と青春』に主演し、最年少でブルーリボン賞主演女優賞を受ける。
『座頭市 THE LAST』 『L Change the WorLd』など数々の日本映画をはじめ、海外作品『ヒマラヤ杉に降る雪』 『ラッシュアワー3』 『ピクチャーブライド』 『SAYURI』などハリウッド映画へも多く出演している。
現在は、NHKを中心に 『にっぽん百名山』『Let'sクライミング』等にMCとして活躍中。

アメリカから帰国後は、静岡県富士宮市に移住し、富士山の見える農場で、自然農法を取り入れた野菜栽培や米作りに取り組みながら、「カフェナチュレ」というカフェレストランを経営する。
農業や食をライフワークとし、無農薬・無肥料栽培で収穫した野菜を使ったカレーなどをレストランで提供しているほか、毎年全国約20ヶ所において、農業と食と健康を題材とした『食の講演』も行っている。
また、作ったお米を使い、自らが手掛けるこだわりの純米酒『ギフト』も静かなブームを巻き起こしている。

「山の日」2020 応援メッセージ 8110048

山の日アンバサダー工藤夕貴様より応援メッセージをいただきました。


今日は山の日。山に感謝を捧げるための日です。この1枚は私の最高にお気に入りの山の写真です。
大好きな山仲間の湊かなえさんとザイルで結ばれて、初登頂を果たした冬の赤岳。私にとっては初めて命の危険すら感じるほどの山旅でした。
山はいつも生と死が隣り合わせ。この時ほど生きている奇跡を実感したことはありません。
山頂でこの写真を撮ったあと、私達は山渓の萩原編集長をはじめとするスタッフの方々と、登山ガイドの方々にサポートされながら、地蔵峠をアイゼンとピッケルを使って下り、ベースの赤岳鉱泉に戻りましたが、やっとの思いでようやく小屋へ辿り着いた時には湊さんとお互いの顔をマジマジと見つめながら、無事登頂できた喜びと共に、生きて戻って来れたことお互いが今ここに存在していること、様々な溢れる思いで感極まってしまい、互いをキツく抱きしめ合いながら涙が止まりませんでした。
言葉は何も出てきません。ただ湧き上がって来る歓喜に任せて、私達はキラキラとした感涙に咽びました。
そのあと小屋でみんなで一緒に食べた味噌ラーメンの美味しかったこと!
今までの人生で、間違いなく1番美味しく感じたラーメンでした。
日々生きているということはそういう奇跡を繋ぎ合わせた積み重ねなのだと私は感じています。
けれどそんな当たり前のことを感じて日々今を生きて行くのはとても難しいことだと思います。
山はそんな大切なことをいつもその変わらない勇姿で、無償で私達人間に教えてくれます。
こうして培った山の友情は遠く離れていても頭の中の記憶から消える事はありません。
湊さんには長く会えていなくても、どこかに山仲間という絆を感じてしまいます。
本当ならコロナがもし治まっていたら、今頃は湊さんとも、またドラマを通じて、山で再会できていたことと思います。
とても残念でしたが、山は逃げません。これからもずっと、私達人類が消え去ってもそこにいる。
だから今は辛抱、辛抱。
山を愛するからこそ、今は遠くに見える山々におもいを馳せて、その時の計画を大切に育てています。
山に登るたびに、山を愛し、山に登るたびに生きていることが好きになる。いつか山小屋の女主人になりたいくらいに山を愛する私です。#山の日2020


山の日アンバサダーエッセイ

工藤夕貴

山への感謝状
 子供のころ、世界を冒険する植村直己さんに憧れた。雄大な山の懐に抱かれて悠久に広がる宇宙を仰ぎ見る。あたりには自分と、静かに広がる静寂の中の自然の吐息。あらゆる生命の営みの音楽。空を見れば無数の星が瞬き、私は今を生かされている奇跡を思い知らされる。そんな想像を何度となく子供のころから繰り返してきた。

 初めて富士山に登らせてもらったとき、山登りにずーっと憧れてきたにも関わらず、あまりの苦しさに「山登りというのは、ただ登り続けることなんだ……」という現実に打ちのめされた。普通に歩いているだけなのに、こんなにも苦しい。気持ちよく気楽なまま、頂上に辿り着けるわけではない。想像よりも遥かに苦しいものだった。けれども長時間の苦行の末に、頂上から世界を見渡したときに湧き上がってきたその歓喜! 体中にまるで血のように駆け巡った幸福感と高揚感は、今までの人生ではまったく経験したことのないものだった。それから静かに、私は山の虜になった。

 憧れは現実に一生の趣味となり、それから幾度となく、私はたくさんの山に出会うことになった。低山にも高山にもそれぞれの喜びがあり、苦しみがある。山を知ることで、私の人生は大きく変わった。命の危険すら感じる山でも、キラキラと輝く生命のありがたさを全身で知ることができる。生きていることは決して当たり前のことではなく、生かされていることへの純粋なる感謝をただただ、謙虚に思う。山はいつも静かな哲学を自然体で学ばせてくれるのだ。大自然の中で農業に勤しむ今の生活も、山に憧れ、自然の中に生きることの素晴らしさに気付いたからこそ。これからどんな山に出会い、いくつ生まれてくる太陽に出会えるのだろう。それがたとえいくつであれ、感謝という二文字しか私の心には浮かんでこない。

工藤タ貴