全国「山の日」協議会 趣意書
――「山の日」をつくろう ――
全国「山の日」協議会 設立趣意書(抜粋)
日本は国土の7割近くを山地がしめる山の国です。日本人は、古くから山に畏敬
の念を抱き、森林の恵みに感謝し、自然とともに生きてきました。山の恵みは清流
を生み、田畑を潤してわが国を囲む海へと流れ、深く日常生活とかかわりながら、
豊かな心をも育んできました。
私たちは、愛する日本に、国民の祝日「山の日」を制定することを提案してまいり
ました。「山の日」は山の恵みに感謝するとともに、美しく豊かな自然を守り、
次の世代に引き継ぐことを銘記する日です。山々が身体の健康や心の健康に、欠く
ことのできない国民の財産であることを再確認し、山との深いかかわりを考える日
にしたいと思います。
「山の日」を知ろう!
1961年に「山の日」の新聞記事
国民の祝日「山の日」が制定されたのは2014(平成26)年5月23日、施行されたのは2016(平成28)年1月1日のことである。8月11日が国民の祝日「山の日」となってから5年目を迎えようとする今「山の日」が制定されるようになった経緯についてあらためて紹介してみたい。「山の日をつくろう」という呼びかけが初めてメディアに登場したのは、調べ得る限りでは1961(昭和36)年のことだった。7月27日の読売新聞の社会面に、「”山の日”を制定しよう」との見出しが大きく載った。記事の内容は「夏の立山大集会」という山岳イベントの閉会式を紹介したもので、富山市内の会場に集まった多くのリーダー候補者を前に、東京代表が次のように述べたとある。
「わが国は全土にわたって脊梁山脈が走る山国であるのに”山の日”がない。山岳人の心を結集して山を愛し安全登山を目指した”山の日”を制定しよう」
この提唱は満場一致で決議され、主催者側も「あらゆる組織を通じて”山の日”制定に努力する呼びかけのお手伝いをしたい」と答えた。しかしその後、制定に向けて具体的な行動があったのかどうか定かではない。ただ、1956年の日本人マナスル初登頂後の登山ブームのさなか、今から約60年も前に「山の日をつくろう」という呼びかけがあったことだけは記憶にとどめておいていただきたい。
その後、名称は異なるが「登山の日」が1992(平成4)年に提唱された。これは日本山岳ガイド協会の前身である日本アルパイン・ガイド協会が呼びかけたもので、10(と)と3(さん)の語呂あわせで10月3日を登山の日と定めたものだ。10月初旬といえば紅葉のハイシーズン。天候も比較的安定し、登山には絶好の時期でもある。同協会は10月3日から11日までの9日間を「登山週間」として、人気山岳での集中登山や三ツ峠でのガイド祭り、都内で登山奨励のイベントを開催するなど、さまざまな企画を立案し、実践した。しかし「登山の日」は国民の間に広く定着するには至らなかったようだ。それはガイド協会単独の企画であるため社会からの認知が得られなかったことと、10月3日がかならずしも休日に当たるわけでもなく、記念イベントを開催しても人が集まりにくいといった問題があったからかもしれない。
国連提唱の「山岳年」と国際「山の日」
2002(平成14)年は、国連の総会で定められた国際山岳年であった。FAO(国連食糧農業機関)が推進役となり、世界各地で山を考えるイベントが開催された。日本でも登山団体の代表者と山岳に関わる有識者、学者たちが国際山岳年日本委員会を組織し、山にまつわるさまざまな活動を展開した。なかでも7月に静岡県富士宮市で開催された「富士山エコ・フォーラム」には1200人が集結。環境問題をテーマにした講演会や研究発表があり、富士山麓から国の内外に向けて山の大切さと保護の緊急性を訴えた。
ここで提案されたのが「山の日」の制定である。フォーラムで発信されたメッセージには、山の自然を守り、山に生きる人々の生活文化を尊重することなどが盛り込まれ、そうした思いを新たにするために日本に「山の日」を作ろう、と呼びかけたのであった。
2002年以降、委員会の活動は「YAMA NET JAPAN」に引き継がれたが、「山の日」制定に向けた活発な動きはその後、見られなかった。しかし国際山岳年から10年後の2012年6月には、「国際山岳年プラス10シンポジウム、みんなで山を考えよう」が催されて「山の日」を強くアピール。国民の祝日化に向けた運動を後押しすることができた。
また、国際山岳年のさまざまな活動を受けて、2003年の国連総会で国際的な「山の日」がつくられた。「持続可能な山岳地域の発展の重要性」への関心を喚起するために、12月11日を「国際山の日(国際山岳デー)」としたのである。しかしその後、積極的な広報・普及活動が得られなかったこともあり、日本国民の間では、今もなおその存在を知らない人が多いのではないかと思う。
日本山岳会「山の日」制定プロジェクト始動
「山の日」の制定に向けて本格的な取り組みが見られたのは2009(平成21)年のことであった。日本山岳会が「山の日」制定プロジェクトを立ち上げたのである。きっかけは、日本山岳会の会報『山』1月号での宮下秀樹会長の提言にあった。会長に就任して2年目の年頭、宮下会長は「山の日」の制定運動を提案し、会員各位の理解と協力を求めたのである。
提言の趣旨は、すでにいくつかの県で始まっている地域単位の「山の日」を全国に広め、その日を中心に「山」「山岳」をテーマにした多種多様なイベントを企画・推進させようという内容であった。そして「健康的かつ文化的な催しを通じて山に親しみ、山を尊び、敬う気風を育てる。山岳への関心を高め、美しい自然を後世に残そうとするのが目的です」と、「山の日」制定運動の狙いをわかりやすく説明している。
この流れを受けて同年5月、新しく会長に就任した尾上昇会長が動いた。「山の日」づくりを重要課題として引き継ぎ、「山の日」制定のためのプロジェクトチームを組織したのである。新会長の号令のもと、成川隆顕プロジェクトリーダー以下8人のメンバーが集められ、組織として「山の日」を作るための取り組みが始まった。
プロジェクトチームはまず、外部に向けた決意表明を行なうことにした。2009年9月、東京・市ヶ谷にある日本山岳会本部にマスコミ各社を集めて記者発表会を開いたのであった。席上で、尾上会長は「日本山岳会は‟山の日”の制定に向けて、まずは山と親しみ、楽しみ、山から学び、山の自然を守り育てるプロジェクトを展開する。ついては他の山岳団体を始め、環境省や文部科学省、自治体などに働きかけて運動を広めてゆく」ことを宣言。新聞各紙が会見の内容を報道した。日本山岳会は、これを機に「山の日」制定運動を進めることを内外に示し、退路を断ったのである。
山岳5団体が「山の日」制定協議会を発足
プロジェクトチームは、結成当初から「山の日」の制定は一山岳会だけで進められるものではないと強く認識していた。日本の山岳団体が結束し、心をひとつにして運動を推進させなければならない。そこで記者発表後、各山岳団体の幹部に対して「山の日」制定に向けてともに協力し合おうと呼びかけた。こうして日本山岳協会(現在の日本山岳・スポーツクライミング協会)、日本勤労者山岳連盟、日本山岳ガイド協会、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HAT-J)との話し合いの結果、2010(平成22)年4月、山岳5団体による「山の日」制定協議会が発足。以後、「山の日」制定運動は5団体の協働作業によって進められていくことになる。それぞれの団体から選任された委員たちが持ち回りで会場を設定して集まり、熱い議論を交わしながら「山の日」制定に向けて活動を始めた。
「山の日」制定協議会としての具体的な動きとしては、まず、国民への啓発活動として「山の日」の趣旨を説明したリーフレットを製作することにした。ただし、単なるアピール文を掲載しただけでは手にとってもらうことは難しい。そこで「山を考える」というタイトルを付け、A4三つ折りの用紙に山に関するクイズを載せて編集した。
「日本に山はいくつあるの?」「日本で2番目に高い山の名前は?」といった身近な設問で一般の人々の興味を引き、回答には山の知識を盛り込んだ解説文を掲載する。そして読み進めていくと、最後に「山の日」への理解・協力を求める文章が出てくるといった体裁である。協議会メンバーには元新聞記者や出版社経営、山岳雑誌編集者など、マスコミ関係者が複数、名を連ねていたこともあり、リーフレットの編集作業は迅速かつスムーズに進められた。
そして「山の日」制定に向けたメッセージ文についても慎重に言葉が選ばれ、メンバー全員の了解を得て世の中に発信されることになったのである。
(2)周知運動の全国展開
リーフレットに記された「山の日」の意義
山岳5団体を母体とする「山の日」制定協議会は、「山の日」を制定する意義を広く国民に理解してもらうために2010(平成22)年、広報・啓発用のリーフレットを作成した。山に興味を持ってもらうために「山のクイズ」を冒頭に載せ、最終ページに「山の日」制定を呼びかけるメッセージを記している。その全文を以下に紹介しよう。
わが国の国土は、7割近くが広い意味での山であり、その多くを森林が覆っています。古くから日本人は山を信仰の対象として崇め、森林の豊かな恵みに感謝し、自然とともに生きてきました。山の恩恵は渓谷の清流を生み、わが国を囲む海へと流れ、生きとし生けるものを育むだけではなく、豊かな心をも育んできました。わが国の文化は、「山の文化」と「海の文化」の融合によってその根幹が形成されたと言われています。
わたしたち山を愛する5つの山岳団体は、国民祝日としての「山の日」制定を提案します。「山の日」は、日々の生活と文化に結びついた山の恵みに感謝するとともに、美しく豊かな自然を守り、育て、次世代に引き継ぐことを国民のすべてが銘記する日です。この運動を通じてわたしたちは、登山者の安全と健康に寄与し、登山の楽しみを広く伝えたいと念願します。すでに祝日となっている「海の日」と対をなして、日本に住むすべての人々が、山という自然を見つめなおし、深いかかわりを考える日にしたいと思います。
わたしたちの提案に賛同され、より多くの方々、団体より、ご理解とご支援、ご協力を賜りますようお願いいたします。
10万枚製作されたリーフレットは、各登山団体や登山用具店、山小屋などを通じて広く配布された。好評だったため、以後、2年間で「健康編」「安全編」「動物編」などの4つのシリーズを発行。記載されたアピール文は各地で開催される山岳イベントなどでも利用され、「山の日」の広報活動に大いに役立てていただくことができた。
国連提唱の「山岳年」と国際「山の日」
2002(平成14)年は、国連の総会で定められた国際山岳年であった。FAO(国連食糧農業機関)が推進役となり、世界各地で山を考えるイベントが開催された。日本でも登山団体の代表者と山岳に関わる有識者、学者たちが国際山岳年日本委員会を組織し、山にまつわるさまざまな活動を展開した。なかでも7月に静岡県富士宮市で開催された「富士山エコ・フォーラム」には1200人が集結。環境問題をテーマにした講演会や研究発表があり、富士山麓から国の内外に向けて山の大切さと保護の緊急性を訴えた。
ここで提案されたのが「山の日」の制定である。フォーラムで発信されたメッセージには、山の自然を守り、山に生きる人々の生活文化を尊重することなどが盛り込まれ、そうした思いを新たにするために日本に「山の日」を作ろう、と呼びかけたのであった。
2002年以降、委員会の活動は「YAMA NET JAPAN」に引き継がれたが、「山の日」制定に向けた活発な動きはその後、見られなかった。しかし国際山岳年から10年後の2012年6月には、「国際山岳年プラス10シンポジウム、みんなで山を考えよう」が催されて「山の日」を強くアピール。国民の祝日化に向けた運動を後押しすることができた。
また、国際山岳年のさまざまな活動を受けて、2003年の国連総会で国際的な「山の日」がつくられた。「持続可能な山岳地域の発展の重要性」への関心を喚起するために、12月11日を「国際山の日(国際山岳デー)」としたのである。しかしその後、積極的な広報・普及活動が得られなかったこともあり、日本国民の間では、今もなおその存在を知らない人が多いのではないかと思う。
日本山岳会「山の日」制定プロジェクト始動
「山の日」の制定に向けて本格的な取り組みが見られたのは2009(平成21)年のことであった。日本山岳会が「山の日」制定プロジェクトを立ち上げたのである。きっかけは、日本山岳会の会報『山』1月号での宮下秀樹会長の提言にあった。会長に就任して2年目の年頭、宮下会長は「山の日」の制定運動を提案し、会員各位の理解と協力を求めたのである。
提言の趣旨は、すでにいくつかの県で始まっている地域単位の「山の日」を全国に広め、その日を中心に「山」「山岳」をテーマにした多種多様なイベントを企画・推進させようという内容であった。そして「健康的かつ文化的な催しを通じて山に親しみ、山を尊び、敬う気風を育てる。山岳への関心を高め、美しい自然を後世に残そうとするのが目的です」と、「山の日」制定運動の狙いをわかりやすく説明している。
この流れを受けて同年5月、新しく会長に就任した尾上昇会長が動いた。「山の日」づくりを重要課題として引き継ぎ、「山の日」制定のためのプロジェクトチームを組織したのである。新会長の号令のもと、成川隆顕プロジェクトリーダー以下8人のメンバーが集められ、組織として「山の日」を作るための取り組みが始まった。
プロジェクトチームはまず、外部に向けた決意表明を行なうことにした。2009年9月、東京・市ヶ谷にある日本山岳会本部にマスコミ各社を集めて記者発表会を開いたのであった。席上で、尾上会長は「日本山岳会は‟山の日”の制定に向けて、まずは山と親しみ、楽しみ、山から学び、山の自然を守り育てるプロジェクトを展開する。ついては他の山岳団体を始め、環境省や文部科学省、自治体などに働きかけて運動を広めてゆく」ことを宣言。新聞各紙が会見の内容を報道した。日本山岳会は、これを機に「山の日」制定運動を進めることを内外に示し、退路を断ったのである。
山岳5団体が「山の日」制定協議会を発足
プロジェクトチームは、結成当初から「山の日」の制定は一山岳会だけで進められるものではないと強く認識していた。日本の山岳団体が結束し、心をひとつにして運動を推進させなければならない。そこで記者発表後、各山岳団体の幹部に対して「山の日」制定に向けてともに協力し合おうと呼びかけた。こうして日本山岳協会(現在の日本山岳・スポーツクライミング協会)、日本勤労者山岳連盟、日本山岳ガイド協会、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト(HAT-J)との話し合いの結果、2010(平成22)年4月、山岳5団体による「山の日」制定協議会が発足。以後、「山の日」制定運動は5団体の協働作業によって進められていくことになる。それぞれの団体から選任された委員たちが持ち回りで会場を設定して集まり、熱い議論を交わしながら「山の日」制定に向けて活動を始めた。
「山の日」制定協議会としての具体的な動きとしては、まず、国民への啓発活動として「山の日」の趣旨を説明したリーフレットを製作することにした。ただし、単なるアピール文を掲載しただけでは手にとってもらうことは難しい。そこで「山を考える」というタイトルを付け、A4三つ折りの用紙に山に関するクイズを載せて編集した。
「日本に山はいくつあるの?」「日本で2番目に高い山の名前は?」といった身近な設問で一般の人々の興味を引き、回答には山の知識を盛り込んだ解説文を掲載する。そして読み進めていくと、最後に「山の日」への理解・協力を求める文章が出てくるといった体裁である。協議会メンバーには元新聞記者や出版社経営、山岳雑誌編集者など、マスコミ関係者が複数、名を連ねていたこともあり、リーフレットの編集作業は迅速かつスムーズに進められた。
そして「山の日」制定に向けたメッセージ文についても慎重に言葉が選ばれ、メンバー全員の了解を得て世の中に発信されることになったのである。
(3)運動のネットワーク化と組織の拡大
「山の日」ネットワーク東京会議の開催
2012(平成24)年10月3日、「山の日」の制定に向けて大きな一歩となるイベントが、東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。「山の日」制定協議会主催による「山の日」ネットワーク東京会議である。それまで地方で独自に行なわれていた「山の日」運動の主催者たちを一堂に集め、それぞれの活動の内容を報告し合ってネットワーク化し、互いに学び合い、全国運動へと広げていこう、というのが企画趣旨である。しかし協議会メンバーは、この会議を単なる報告会にとどめておくつもりはなかった。ようやく実現した初の全国会議である。参加者全員が山の日に関する知識を深めるため、自然環境問題や山の恩恵について、専門家の話を聞くプログラムを組んだ。
そのうえで関係省庁、国会議員らに参加を呼びかけ、「山の日」制定への取り組みをアピールすることも会議の重要な目的と位置づけた。
「山の日」制定に向けたプログラム
会議には「山の日」に関わる環境、文部科学、林野、国道交通、観光といった関係省庁、地方自治体、環境保全団体、野外活動グループ、メディア関係者、そこに山岳5団体など合わせて100人余が参加した。第1部は、各地で展開されている「山の日」運動の紹介で、山梨県、群馬県、広島県、松本市、栃木県から、それぞれの山の日に対する取り組みが報告された。民から官へのアプローチ手法や、次世代を育てるためのイベントの工夫など、地域の特色を生かした活動内容が披露され、新たに「山の日」制定運動に取り組もうとする自治体にとって参考になる情報が盛りだくさんの内容であった。
第2部はシンポジウム「山の自然環境保全」。環境省が取り組む山岳環境の諸問題や、日本の森林資源と環境保全などについて専門家の意見が述べられ、「山を知り楽しむことが環境保全に役立つ。その大きくて確かなきっかけとして山の日の制定を」との提唱があった。
第3部はシンポジウム「次世代につなぐ山」で、山小屋、教育現場、そして行政の取り組みについてそれぞれの立場から報告がなされた。山の日には「山の恵みに感謝するとともに、美しく豊かな自然を守り、次の世代に引き継ぐ」という意義がある。そのためにはどうしたらいいのか、識者たちの発言のなかには多くのヒントが込められていた。
たとえば登山の教育的効果について、文部科学省スポーツ・青少年局の藤原一成さんは、国立登山研修本部の資料をもとに次のような報告をされている。
山に登ることによって得られる教育的効果のひとつには「自然との触れ合いを通して、その雄大さ、厳しさや、地域の素晴らしさを味わうことができる」ということがある。つまり登山は自然に親しむ機会を得て自然の大切さに気づく環境教育につながるということだ。会議冒頭の講演で、東京学芸大学教授の小泉武栄さんが、日本には世界的にも特異で美しい自然があることを強調されたが、その価値に気づくきっかけとして、登山が有効な役割を果たすことは間違いない。
ふたつ目は、山に登ることによって「挑戦する心、粘り強く取り組む心を育て、達成感を得ることができる」ということ。一歩一歩の歩みが、いつかは必ず登頂という成果につながることを何度か体験すれば、精神的な成長、自己成長を促すことができるだろう。
そして3つ目は「人間関係」。グループ登山や山小屋生活では協調性が養われ、規律正しい行動を通して社会性を身につけることができる。さらに、体を動かすことの心地よさを味わいながら体力も養われる。
日本の豊かな自然を守り、次世代につなげるためにも、登山の教育的効果を実証しながら、山の親しむ環境を周りが用意していくことも重要であると説いた。
なお、会議の冒頭には作曲家で文化功労者の船村徹氏による特別講演「山は心のふるさと」があり、「山の日」運動を大いに元気づけるものとなった。
船村さんは2008年に地元・栃木の下野新聞に「山の日をつくろう」と題するメッセージを寄せていた。「山と川と海はつながっている。山と海は親友であり一体だ」と書き、「海の日」があるのに「山の日」がないのはおかしい、と祝日制定を訴えている。この明快なアピールは、日本山岳会が運動を始めたときのきっかけにもなっていた。船村さんの講演の内容は、海なし県に生まれた山への思いと、山と海との強い関係性について熱く語りかけるもので、出席者たちの共感を得ていた。
会議のなかで、「山の日」制定協議会は夏山シーズン前の6月第1日曜日を全国いっせいの「山の日」にしようと提案した。山々がみどりに輝く時期であり、心が山へと向かう季節。そして祝日と祝日との間隔がもっとも長く開き、祝日のない6月、ということが第1候補日としての推奨理由である。この提案は、盛大な拍手をもって出席者の賛同を得ることができた。
次のステージへ
「山の日」ネットワーク東京会議で得たものは大きかった。全国各地で展開されている「山の日」運動を総覧し、相互の強いパイプが出来たということ。そして各省庁や地方自治体の長、さらに「山の日」に関心を持つ国会議員とのつながりを持てたこと、など。これで「山の日」制定運動の基礎固めはある程度、整ったものと判断することができた。しかしその先の展開を考えた場合、もともと登山愛好者の集まりである山岳5団体の運動には限界が見えていることにも協議会メンバーは気づいていた。
「山の日」は登山者だけのものではない。国民の祝日として制定するからには、すべての国民にその意義を理解してもらう必要がある。そのためには山と人の生活、歴史、文化などを関連付けた、より幅広い視点から山を考える啓発活動が必要になってくる。山岳に特化することのないスケールアップした国民運動として、より多くの人々を巻き込んでいかなければならない。
さらに、「山の日」を国民の祝日とするためには国会議員への積極的な働きかけが肝要となってくる。新たに祝日を作るには、法律(国民の祝日に関する法律)を改正しなければならず、党派を超えた幅広い国会議員の理解・協力なしにそれは成り立たないからだ。
次のステージに上がるためには、新たな組織づくりが必要である。山岳5団体は、「山の日」ネットワーク東京会議で得た人脈や組織とのつながりをもとに、次のステップへと踏み出した。
そして2013年、新たに生まれた組織が全国「山の日」制定協議会である。
萩原浩司(山の日アンバサダー)
「山の日」制定の歩みと 一般財団法人全国山の日協議会の活動
1956年 | マナスル登頂等で国民的登山ブームが起こる | |
1961年 | 富山県立山での登山大集会で「山の日をつくろう宣言」 | |
1991年 | 日本山岳ガイド協会(旧名 日本アルパインガイド協会)が10月3日を「登山の日」として集会 | |
1995年 | (平成7年)「海の日」が国民の祝日に | |
1997年 | 山梨県で「山の日」行事始まる。その後、広島県、大阪府、岐阜県、群馬県と「山の日」制定へ。 | |
2002年 | 国際山岳年。日本委員会で一連の行事を行う。山に係る諸学術、民族、環境に焦点をあてた。「山の日」をつくろう宣言も。 | |
2008年 | 文化功労者作曲家 船村徹氏、新聞紙上で「山の日」を国民の祝日に提唱。 | |
2010年 |
山岳5団体(日本山岳協会、日本山岳会、日本勤労者山岳連盟、
日本山岳ガイド協会、日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラスト)による、「山の日」制定協議会発足。
『山を考える』リーフレットを4種類制作し、全国各地に配布。 また、各地の運動と連携し、「山の日」啓発に努める。10月以降同協議会より国会議員、地方自治体首長へ の働きかけ。 |
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2012年 | 6月 | 国際山岳年プラス10「みんなで山を考えよう」開催。 |
10月 | 「山の日」制定協議会主催【「山の日」ネットワーク東京会議】開催。 本活動により関係諸官公庁、自治体、マスコミ等に周知。山岳団体として6月の第一日曜日を「山の日」として提案。 | |
2013年 | 4月 | 超党派「山の日」制定議員連盟発足。
以後100名を超す衆参両議員が参加し、12回にわたる勉強会を開催。 また、4月以降山岳5団体を中心に、各地で講演、「山の日」活動を展開。 長野県は新たに「山の日」制定の動き。 |
6月22日 | 「富士山」世界文化遺産登録 | |
11月11日 | 全国「山の日」制定協議会発足。全国へ働きかけ開始。 | |
11月22日 | 超党派「山の日」制定議員連盟は、8月11日を「山の日」に制定すべく、同議連内で意見集約。 全国「山の日」制定協議会会員募集開始。 |
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2014年 | 1月 | 超党派「山の日」制定議員連盟は、通常国会の会期中に山の日」法案を提出すべく活動を始める。 |
2月 | 全国「山の日」制定協議会、第二次会員募集開始。 また、会のウェブサイト yamanohi.net を構築。 全国での「山の日」運動のネットワークセンターを担う予定。 |
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3月 4日 | 全国「山の日」制定協議会臨時総会および勉強会を開催。 「山の日」制定後の運動展開を視野に、会規定を改定。 |
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3月 28日 | 全超党派「山の日」制定議員連盟は、衆議院に「国民の祝日に 関する法律の一部を改正する法律案」( 通称、「山の日」法案) を提出。 | |
4月 23日 | 「山の日」法案、衆議院内閣委員会で可決。 | |
4月 25日 | 「山の日」法案、衆議院本会議で賛成多数で可決。 | |
5月22日 | 「山の日」法案、参議院内閣委員会で可決。 | |
5月23日 | 「山の日」法案、参議院本会議で賛成多数で可決。 8月11日が国民の祝日「山の日」となる。 |
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5月28日 | 全国「山の日」制定協議会総会開催。政、官、自治、経、学術、地域、環境、山岳その他、多くの分野から出席。 会の名称を、全国「山の日」協議会に改めた。 「山の日」が施行される2016年8月11日を視野に周知運動を展開すること、および各分野で「山の日」運動をどのように行うかを起案することを決定。 |
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5月29日 | 「第三次会員募集開始 | |
5月31日 | 「山の日」を考える 広島会議 後援事業 役員参加 | |
6月 1日 | 広島「山の日」県民の集い 視察 | |
6月 1日 | 東京八王子市(公社)日本山岳会 高尾山「山の日」アピール 共催事業 | |
8月 8日~10日 | 名古屋 夏山フェスタ 共催事業 谷垣禎一本会会長講演とパネリスト出演 役員が実行委員長を務めた。 |
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6月 7日 | 「信州山の日」50日前カウントダウン・イベント 協力事業 | |
7月27日 | 「信州山の日」制定イベント 協力事業 | |
8月 8日~10日 | ぐんま山フェスタ2014 協力事業 | |
8月 8日 | 米子市 第1回「山の日」を語る米子集会 協力事業 役員参加 | |
8月10日~12日 | 上高地、新穂高、西穂山荘「山の日」PRイベント 主催事業 役員、会員多数参加 「山の日」うちわ1500枚配布 |
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10月26日 | 栃木県塩谷町「ふるさと髙原山を愛する集い」 役員参加 | |
11月19日 | 全国「山の日」協議会運営委員会発足 | |
11月22日~26日 | 広島市(公社)日本山岳協会「広島山岳平和祭」山の日アピール アジア山岳連盟会議において「山の日」お披露目 役員参加 |
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11月29日~30日 | 松本市 岳都松本山岳フォーラム 共催事業「山の日」アピール 役員参加 |
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12月12日 | 本会第1回運営委員会開催 | |
2015年 | 1月13日 | 本会第2回運営委員会開催 |
3月24日 | 本会第3回運営委員会開催 | |
3月28日~29日 | 全国「山の日」フォーラム開催 主催事業 東京国際フォーラム各会場にて開催 2日間の来場者総数約18,000名 シンポジウム予約聴講者数4部門各200名で合計800名 |
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4月22日 | 本会第4回運営委員会開催 | |
5月22日 | 全国「山の日」協議会総会開催。政、官、自治、経、学術、地域、環境、山岳その他、多くの分野から出席 | |
5月22日 | 本会第5回運営委員会開催 | |
5月24日 | 第四次会員募集開始 | |
6月 6日~ 7日 | 第14回ひろしま「山の日」県民の集い 後援事業 役員参加 | |
6月17日 | 本会第6回運営委員会開催 | |
6月20日~21 | 名古屋 第3夏山回フェスタ 共催事業 役員参加 | |
6月27日 | 毎日KANSAI 山フェスタ 後援事業 役員参加 | |
7月26日 | 「信州山の日」制定イベント 後援事業 「信州山の日」フォーラムinおたり 役員参加 |
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8月 3日 | 本会第7回運営委員会開催 | |
8月 8日 | 「山の日」制定記念シンポジウム 共催事業 みんなで白馬と山を考えよう! 役員参加 |
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8月 8日~ 9日 | 谷川岳「山の日」制定記念イベント 後援事業 | |
8月11日 | 「山の日」フォーラムひろしま2015 後援事業 役員参加 | |
8月11日 | 高山市 「山の日」制定プレイベント・ジオツアー 協力事業 のぼり10枚掲示しアピール |
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8月11日 | 「山の日」プレ・イベント 後援事業 「山の日」制定記念祭りin大分・くじゅう 谷垣禎一本会会長他、役員会員多数参加 「山の日」横断幕1枚、のぼり20枚掲示しアピール |
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8月11日 | 来年8月11日に誕生する祝日「山の日」を記念して歌を制作 「山の日の歌」歌詞一般募集開始 |
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10月 2日 | 本会第8回運営委員会開催 | |
10月 4日 | 栃木県 総合文化センターにて 「山の日」制定記念シンポジウム みんなで「山の日」を考えよう 協力事業 |
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10月25日 | 栃木県塩谷町「ふるさと髙原山を愛する集い2015」 役員参加 | |
10月29日 | 本会第9回運営委員会開催 | |
11月20日 | 全国「山の日」協議会 役員会・臨時総会開催 | |
11月20日 | 本会第10回運営委員会開催 | |
11月28日~29日 | 松本市 岳都・松本「山岳フォーラム2015」 共催事業 役員参加 | |
2016年 | 3月 1日 | 本会第2回運営委員会開催 |
4月 1日 | 一般財団法人全国山の日協議会 設立 | |
8月11日 | 第1回「山の日」記念全国大会in上高地開催 会場:長野県松本市上高地 |
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2017年 | 5月13日~14日 | 第2回全国「山の日」フォーラム開催 会場:東京国際フォーラム |
8月11日 | 第2回「山の日」記念全国大会in那須開催 会場:栃木県那須町 |
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2018年 | 6月9日~10日 | 第3回全国「山の日」フォーラム開催 会場:東京秋葉原UDXシアター |
6月 8日 | 山の日マガジン2018創刊 | |
8月10日 | 「山の日」記念 大山登山実施 | |
8月11日 | 第3回「山の日」記念全国大会in鳥取開催 会場:鳥取県米子市大山町 |
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2019年 | 3月16日~17日 | 第4回全国「山の日」フォーラム開催 会場:東京秋葉原UDX |
3月16日~17日 | 東京登ろう歩こうラリー実施 | |
6月 1日 | 山の日マガジン2019発行 | |
8月11日 | 第4回「山の日」記念全国大会Yamanashi開催 会場:山梨県甲府市 |
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2020年 | 4月10日 | 山の日マガジン2020発行 |
6月10日 | 一般財団法人全国山の日協議会 評議員、理事、監事の改選 第2期活動スタート |
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8月11日 | 第5回「山の日」記念全国大会おおいた 2021年8月に延期 ※新型コロナウイルス感染拡大の影響により |
以上
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また、この活動に継続的にご賛助をいただける会員様(個人・法人・団体)を募集しております。
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